大和路を誘ってくれた人々
旅は京都から奈良へと、先人に誘われ歩いた足跡を辿る様な大和路の古寺巡礼。
今回は今まで2度閉館日に当たり見る事の出来なかった入江泰吉写真美術館を訪れた。丁度生誕100年の節目に当たり回顧展をしていたのでモノクロの時代から晩年の作品までを見る事ができたが、奈良の風土と古寺と仏像に心底惚れ込んだ人の作品は奥行きがあると改めて感じた。
入江泰吉の写真集は私の大和路散策の道案内でもあった。その入江さんが住んでいた東大寺界隈の旧宅が開放されたとの記事を知り開門前に訪れた。旧宅の南側は奈良公園の森になっており窓から見える紅葉の美しさはまさしく入江さんの作品の様でもある。
もう一つ行きたかったのは南の山間にある長谷寺と室生寺。予報では曇りであったが長谷寺に着いた時には雨が降り出した。大降りでなければ雨に濡れた黒い幹と紅葉は素敵な絵になる。遠くの山並みに霧が流れるさまと紅葉も良いものであり、入江泰吉の写真の世界でもある。
室生寺は更に山の中で午後になると寒さが染みて来たが、紅葉の季節のライトアップされた室生寺を一度見たく夕方の訪問となった。ここは寺の中に仏像が安置されていて扉が開かれているため自然と寺と仏像が一つになった佇まいがいい。金堂には十一面観音などの仏像が並びたまたま十二神像も全てが置かれていた。そして私は等身大の釈迦如来座像のふくよかな姿が大好きだ。なんて優しく全てを迎い入れてくれるお顔をしているのだと小さな声で呟くと隣に居合わせた見知らぬ女性が“ほんとうですね”と呟いたのが嬉しかった。5時からはライトアップとなり暗闇に浮かぶ寺と紅葉の幻想的な風景にしばし見とれた。
奈良の自然と古寺と仏像は入江泰一に加え和辻哲郎、亀井勝一郎、土門拳、白州正子などの著書や写真に誘われ度々訪れてきた私の心象風景でもある。