坂本龍一と福岡伸一〈音楽と生命〉
音楽家坂本龍一氏がガンにより亡くなった、未だ71歳の若さだった。
私は坂本龍一を論ずるものを持っていないが、彼の音楽は好きだった。生で聴くことが無いままで終わったが演奏会ビデオは何本か録画してあり何度も聴いて来た。彼の音楽は一粒一粒の音が何か自然に身体に沁みてくる様な気がする、バッハのチェンバロ曲ゴールドベルグ変奏曲の出だしの音と共通する様にも思える。
死の直後に出版された〈音楽と生命〉生物学者福岡伸一との長年の交友の中から生まれた対談集であるが興味を持ち手に入れた。福岡博士は科学者、坂本龍一は芸術家であるから一見接点は無いように思うが福岡博士の動的平衡の考え方と坂本龍一の自然観との対談はきっと創造的なもの本質的なものになるなとの予感があったので時には難解な部分もあったがわくわくしながら読んだ。
読んでいるうちに坂本龍一はその風貌からして教授のようであり、芸術家の前に哲学者の様に自然と人を考えていてそれが彼の音楽の根底に流れている様に思う。そして福岡伸一も生命体の破壊と創造のバランスによる生命のあり様を示し、それが音楽の楽譜には書かれてないその時限りの音の美しさに通じると言う。共通した接点がそこにあった。
お互いがロゴスとビュシスの間を行ったり来たりしながら作品が生み出され行く過程を見ている様だった。